「学究」の学
地域医療の問題解決を図るには、それを目指す若い世代を導いていく、つまり地域医療指向型教育が必要であるのは明白です。ですが、それだけで済むのでしょうか。医師は職業専門性が強く、生涯にわたって研鑽を要する職業です。一方的に学ぶのではなく、自らが課題解決を志向していく学究的態度が必要です。また、地域医療学の確立にも、この分野独自の研究視点と成果が欠かせません。このためにはさまざまなアプローチがあるでしょうが、日々通り過ぎていく臨床現場の中にテーマを見つけて行うPractice based researchは有力なものであると思います。
慨して臨床研究と言うと、デザインが大事であるとか、事前にプロトコールをきちんと仕上げよ、と言われます。これは間違いではありませんが、それらに囚われすぎて、実際の研究までいきつかない事例が多く見られます。
「臨床現場」や「地域社会」という貴重なフィールドと、研究者の実経験からくる仮説や疑問、それらを結びつけることが何より大切です。帝京大学地域医療学では、実際にPractice based researchを行ってきた教員による研究、また研究指導を行っています。
*画像は十和村にて往診時のものです。地域在住の高齢者をみているうちに、どうもやせていないほうが長生きだなと思い、データを集めて解析し、期待した結果を得ました。その疑問は1998年ごろ湧き上がりましたが、論文になったのは2006年です(コホート研究2に詳述)。
Correspondence:ある研究者から
臨床の研究、特に地域の研究で大切なことは対象者の生活を理解したうえで、対象者の「こうありたい」希望を研究のエンドポイントに設定できるかどうかだと思います。なってほしい姿が、研究者側の思いではいけないですよね。腹囲が3cm小さくなるより、明日元気で仕事ができること。上気道炎の症状が消失するより、なんとか会社に行けること。そういうことが理解できるのは、実際に患者さんに接しながら仕事している人だけですよね。
研究のエンドポイントは、病気それ自体より、患者や家族の方々がより良くなって欲しい、幸せになって欲しいという方がはるかに大事と思います。だから、まず人々の生活を理解し、そこに寄り添うこと、そこから研究の視点が生まれるのだと思います。