Health policy research

医療政策や医療システムはどうあるべきか、策定され、運営するべきかは大変重要な問題です。その中で、より均等で水準を保った医療サービスを人々に提供するために、それを担う人材はどのように養成されるべきか。あるいは、さらに遡って現状はどうなっており、問題の所在はどこにあるのか。それらの客観的情報を、医療政策担当者に提供する研究が必要です。それによって初めて、根拠に基づいた医療政策、つまりEvidence-based health policyが可能となります。

 

一つ例をあげます。1980年代、医師過剰が声高に叫ばれ、結果として医学部入学定員が減らされました。根拠の一つに例えば、「欧州のある国では人口10万人あたり医師数が200人を越すと医師の過剰が起きている、したがってそれ以下に減らすべきである」というのがありました。しかしながら、国によって医療制度や医療サービスの内容は違ってきます。我が国において本当にそうなる可能性があったかどうか、仮説を実証する研究が必要だったはずです。

 

私たちはこれまで、医師の地理的偏在に焦点をあてて研究してきました。例えば、諸外国と同様に日本においても、非都市部に勤務する医師の特性として、へき地出身や、プライマリ・ケアに関連する診療科であることなどを示してきました。

 

このような研究は、医師以外の医療(関連職)に対しても行われるべきです。医師に関しても、他にも診療科偏在の問題があります。よりよい医療政策策定のためにHealth policy researchの推進が求められています。

HPR-これからなされるべき研究分野

医師国家試験ガイドライン(2010)総論から:青字は新規追加
医師国家試験ガイドライン(2010)総論から:青字は新規追加

10年ほど前に、医師の偏在についての研究結果を発表したことがあります。そのときに、こんなコメントがありました。

・こういうことが研究と言えるのかわからない

また、その結果をある国内英文雑誌に投稿したところ、下記の査読理由で却下されました。

・医師が田舎に少ないのは当たり前である、こんなことを調べても意味がない

(この論文はその後、海外の雑誌にて受理されています)

 

私たち医療人は平生、医療や医学に限定してものを考えがちです。しかしこれらもまた社会を構成する要素であり、社会との交互作用があり、相互に影響を及ぼし、また社会全体によって支えられているものです。例えば医師国家試験ガイドラインを例にとると、昔に比べて、医療安全や質、医療経済や制度、コミニュケーションや多職種連携などが強調されています。「医療・医学の社会の中でのありようや立ち位置」を知ることが求められているのです。

 

更に言えることとして、医療・医学は人々の幸福を目指して進化してきています。もし田舎に医師が少ないことで社会や人々が困らないなら研究も必要ないかもしれません。しかし、現実はあきらかに逆です。非都市部に限定せず、様々な意味で医療サービスへのアクセスに恵まれない人々への施策はどうあるべきか。もしそれを無視するならば、医療・医学は本質的な存在意義を問われるでしょう。

 

研究(学究)は、既に知られていることの上に新しい知見を積み上げることです。それは狭義の医学・医療だけではなくそれを取り巻く社会とかかわりの中で、どのように実践されるのかでも同様です。ここにHealth policy researchの意義があります。

求められているHPRのテーマ例

・医師に限定せず、医療スタッフの偏在の様相と改善策

・それらと関連する専門職教育

・多職種連携の促進因子

 

・その他、地域医療計画の策定や医療・保健・福祉サービスに資するもの

分野(例)
消費者 
保健医療行動・需要、 健康教育・患者教育、コンプライアンス
供給者 
医療供給の効率・需要状況、医療のパフ ォーマンス評価
 インターフェイス 
地域保健サービス・医療サービスの費用効果比・施設利用の評価と改善