平成23年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)実績報告

1. 機関番号  32463 

2. 研究機関  帝京大学                                   

3. 研究種目    基盤研究(C)     

4. 研究期間      平成21年 度  ~  平 成23年度
5. 課題番号    21590649
6. 研究課題  組織改革(吸収合併)が従業員の心身に与える影響に関する研究

7. 研究代表者 井上和男

8. 研究分担者 なし

9. 研究実績の概要

文書上の合併が行われた2008年、実際に合併側事業所新工場に被吸収側事業所従業員が移動した2009年、そしてその1年後の2010年の、吸収合併前後の3年間にわたる職員健康診断結果から、従業員の動向と、その生活スタイルの変化の様相を調査した。(なお、被吸収側事業所をH、合併側事業所をGと略記する。)

I. 従業員の動向

①各年度の横断的分析(Table. 1)

2008年:受診者数は合計で531名、内訳はH事業所259名(48.8%) G事業所279名(51.2%)でと、人数の上ではほぼ「対等合併」であった。性別は、H事業所が女性127名(49.0%)、男性132名(51.0%)とほぼ同じであったのに対し、G事業所は各々60名(22.1%)、212名(77.9%)と男性が3/4以上を占めた。 上記の4群における平均年齢は順に40.7、46.6、45.9、43.7歳であり、H事業所の女性従業員の年齢がG事業所よりも低かった。

2009年:受診者数は合計で448名、内訳はH事業所201名(44.9%) G事業所247名(55.1%)でと、H事業所の比率が低かった。H事業所での女性従業員減少が主な要因であった。

2010年:受診者数は合計で330名、内訳はH事業所17名(33.5%) G事業所213名(55.1%)でと、H事業所の比率が1/3近くに減った。H事業所での男性および女性従業員減少が主な要因であった。

②3年間の縦断的分析(Table. 2)

全体では従業員数は2008→2009→2010年で、531名→448名(84.4%)→330名(62.1%)と1年でほぼ20%近い減少があった。減少数は201名であったが、そのうちの71%をH事業所が占めている。H事業所女性従業員が全体の減少の44%を占めている。2008年から2010年での従業員数減少率は各々、H事業所従業員では女性30.7%、男性59.1%で、G事業所従業員では女性65.0%、男性82.1%であった。

II. 健康関連行動

 日常生活や生活習慣に関連する問診項目では、いくつかの項目で事業所間で差異がみられた。例えば、2008年において女性ではG事業所の従業員が歩くことや通勤での徒歩・自転車について積極的であった。男性では、労働時間が9時間以上、1日1回10分以上歩く、減量したいがG事業所の従業員に多く、逆にゆっくりよく噛んで食べる、緑黄色野菜をとる、果物、肉、海藻類・小魚を良く食べるのはH事業所の従業員に多かった。しかし、他のストレスと関連すると考えられる行動(飲酒、睡眠、ストレスの感じ方、疲労感、生活満足度など)には差異がみられなかった。

 今回の結果より、以下が推察された。

1. (予期できることであるが)全体としての人員整理の影響は被吸収事業所従業員が強く受ける。

2. 吸収合併による人員整理は、若い年代の非正規雇用(パートなど)が多いと思われる被吸収事業所の女性従業員に他よりも強く反映する。

3. 文書上は吸収合併とはいえ、今回のような数の上での対等合併では、被吸収側従業員への影響は(少なくとも2年と言う短期間では)少ない。

4. 分析できた従業員は、被吸収側でも同一市町村内での合併事業所に勤務しており、日常生活への影響は少なかった。