平成28年度科研費実施状況報告書(抜粋)
9.研究実績の概要(Summary of Research Achievements)
平成28年度は、東日本大震災における福島第一原発事故における以後の周辺地域の医師の動向(流出および流入の合計による医師数変化)について検討した。平成27年度は、2つの主な被害である津波と福島第一原発事故の各々について医師分布に与える影響を調査した。その結果、津波と福島原発事故では、前者は医師数の減少を起こさなかったのに対して、後者では原発に近いほど医師が減少していることが示された。そのため第2分析として、福島第一原発事故に焦点を当てたものである。
平成26年度の予備解析(二次医療圏)で、津波被害による医師分布への影響は軽度である一方、原発周辺の医師の減少は二次医療圏での分析でも明瞭に見られており、本年度はそれを更に細分化して検証した。具体的には、宮城、福島の2県を対象として市町村単位、福島第一原発からの直接距離で層別化して震災前後(2010年、2012年)での医師分布の変化を、医師数人口比を主指標として観察した。
その結果、①2県全体での全医師数人口比の変化は福島で-1.9%、宮城で+3.2%と対象的であり、原発至近地域を含む福島県で減少していた、②2県を合わせて、原発から医師の勤務市町村の距離で層別(20-50km, 50-100km、100km以上の3カテゴリ、20km未満は居住制限区域を含むため除外)した。2県の原発距離100km以上の市町村に比して20-50 kmでは3.9倍(95%信頼区間2.6-5.7倍)、50-100 kmでは2.6倍(95%信頼区間1.7-3.8倍)より原発より遠隔の市町村へ流出していた。その中でも医師の特性としては、低年齢および低経験年数の医師がそれ以外と比べてより多く流出していた。本研究において、やはり原発に近い地域により多い医師流出された。また、低年齢および低経験年数の医師を当該地域に保持する施策の必要性を示した。
10. キーワード(Keywords)
東日本大震災、福島第一原発事故医師分布、医師流出、宮城県、福島県